競馬の税金については裁判になるなど何かと話題になっています。政府は2021年から公営ギャンブルにおける1口当たりの払戻金額が1,000万円を超える高額の払戻金受取者への徴収を強化することを決定しました。競馬ファンは普段から税金を納付していますが、強制力のある法改正に物議が起っています。そこで法改正に至る経緯と今後の注目すべき点をここで解説していきます。
目次
政府が法改正に至る理由は申告者が少ないこと
政府の法改正の詳細は、1口1,000万円を超える払戻金を手にした的中者の氏名や銀行口座、該当レースなど電子媒体で記録・保存するように各団体に通達を出したことです。
これはJRAや各自治体が主催している公営競技で、高額払戻金を手にした的中者の情報を国税局に情報提供できることになります。
この背景には競馬の払戻金にかかる税金が一時所得であることが関係しているでしょう。そもそも競馬は馬券購入時に10%が国庫納付金として国に納められています。ここから馬券が的中した場合、年間の総合計が50万円以上(特別控除額)になると確定申告の必要です。
競馬や競輪、競艇といった公営ギャンブルの場合、的中した払戻金は次のレースに投票するのが通常ですので、馬券購入にかかったお金は経費に回るべきと主張する人が多くいます。しかし、国税局では的中した馬券のみが一時所得の経費になると明記しており、競馬でWin5などの少額投資で高額の払戻金を手にした場合はほとんど経費にすることができなくなります。
雑所得になると外れ馬券も経費に回すことができるのですが、一般の競馬ファンでは雑所得にするのが至難であり、ほとんど適応されていません。これを受けて競馬ファンの中では払戻金に対して確定申告する人の割合が少ないことが挙げられます。
事実、競馬の払戻金では約8割が未徴収となっており、ここで政府が手を出したのが今回の法改正ということに繋がります。
裁判沙汰になったことが発端
上記以外に政府が法改正に踏み切ったのは雑所得を争った裁判も発端の一つです。2015年と2017年に起きた裁判ではメディアが大きく報じたこともあり、馬券における税金の在り方もネット上では問われるようになっていきました。
この裁判では一時所得か雑所得かで最高裁まで争った経緯があり、あくまでも一時所得と主張する検察・国税局側と継続した事業として成り立っているから雑所得であるとする原告側が対立し、ともに最高裁で雑所得を認められています。
本来競馬を含む公営競技はすべて一時所得の対象となり、これはパチンコも同様で、宝くじのみ非課税となっています。一時所得は臨時的な収入ということもあって、まさに公営ギャンブルはそれに該当しています。
しかし、馬券は購入時に国庫納付金を取られているのに対し、払戻金にまで課税対象となるなら、「なぜ外れ馬券だけが税金の対象外になるのか」というところは長年競馬ファンの疑問でもあります。これを解決する前に法改正に踏み切ったのは競馬ファンの納得いかないところです。
窓口でも対象になる
今回の法改正では、履歴が残ってしまうインターネットを利用した投票だけではありません。これまで競馬場やウインズで馬券を購入して高額の払戻金を手にしていた人の場合、人物を特定して国税局が把握するのは難しい問題となっていました。それが1,000万円を超える場合には記録を残すようになっていくので、今回の法改正は競馬場やウインズでの高額払戻金の窓口で的中者の身分を把握することが可能となります。
そもそも申告しやすいように経費を増やすべき
公営ギャンブルでの払戻金について確定申告者が少ないことは一時所得が外れ馬券などの経費を使えないことがあるからです。Win5やオッズパークのロトでは100円から購入できて100万円から1,000万円になることも珍しいものではありません。南関東競馬のSPATロトでは1口50円ですので、キャリーオーバーがあればさらに少ない投資金額で高額当選を狙えます。
しかし、これらの投票券は的中票のみが経費対象となるので、100円や50円の経費ではほとんど意味がありません。これに対して雑所得では年間の外れ馬券が経費になります。もし一時所得で外れ馬券を経費にすることができれば、計算上は面倒でも的中者からすれば納税額もぐっと減りますし、確定申告しやすい分だけ多くの未納分が徴収できることになりそうです。競馬ファンと国と双方にメリットがあるといえます。
ただ、国税局ではこのような動きを見せることがありませんので、従来通りの一時所得で外れ馬券は経費に認めない方向を示していくでしょう。
購入者が減ってしまう懸念性
国税局が担当する案件では1,000万円という金額がそこまで大きいものではないのかもしれませんが、一般の競馬ファンにとって1,000万円というのはあまりにも桁が違い過ぎてピンとこないものです。万馬券をゲットしたときにはテンションも上がりますし、何より回収率100%に近い成績を残すことが難しいのも現実です。
法改正で1,000万円超えにした理由として、あまりに少額だと管理する税務署も大変ですし、何よりも外れ馬券が経費にならないという声が大きくなってきていることもあって、徴収範囲を厳しくするとその分競馬離れも起きかねないかもしれません。
もちろん、国税局や政府からすると取れる税金は徴収したいでしょうから、数百万円の払戻金や50万円を超えた少額の払戻金についても所得税を課したい。ただ、それをすることで手続きが面倒に感じた競馬ファンが減少すると余計に税収が減っていくことが懸念されます。
ここが1,000万円未満に絞れない政府の判断ではないかと見受けられます。
法改正をしても結局何も変わらない
今回の改正では裁判沙汰を経て国税局側にどのような変化があったのかを考えると、結論から先にいうと何も変わっていません。馬券の払戻金について一時所得から雑所得に変わった判決はあったものの、国税局では定める馬券の雑所得に関しての記載はややこしすぎて読むのも一苦労するほどです。
簡潔すると、払戻金の所得区別は自動的に購入するソフトを使用してほぼ毎回レースを購入し、回収率が100%以上になるように継続して多額の利益を上げた場合には雑所得に該当するとしています。
いやいや、ちょっとまてよとなるのが従来の競馬ファンといえるでしょう。まず自動ソフトのみに限定されているのはどうかといえます。2017年の裁判では原告側の男性は競馬ソフトを使わないで馬券を購入し続けていました。全くもってハードルを上げています。次にほぼ毎回レースを購入するところも資金に余裕がないと難しくなっています。
そして一番厄介なのが回収率100%以上の多額の利益です。まさか国税局の方から回収率という言葉が出るとは思ってもみなかった人は少なくないでしょう。しかも100%以上とされています。
競馬ファンなら回収率70%を超えたら優秀ともいわれる中で、まさかの100。%超えをしないといけないとは、かなり厳しい現実です。この文面を作った官僚はさぞ競馬を知らないなということがうかがえます。
まとめ
競馬の払戻金にかかる税金については、これまでの裁判を経て国税局も軟化するかと思いきや、法改正によってより厳しいものとなっています。法改正では1,000万円以上の高額払戻金を得た的中者の身分やレース情報を主催者側が把握して国税局に情報開示することが可能となります。
高額払戻金が未納になっているケースが多いことから今回の法改正に踏み切ったといえます。外れ馬券を経費にできる雑所得の申告はハードルが高いことで融通がききません。本来一時所得で外れ馬券が経費にならない現状が、多くの競馬ファンから納得していないことが挙げられ、確定申告をしていないのにつながっていることを国がもっと考慮すべきといえるでしょう。